運命の日編


その時はある日突然にやってきました。
友達宅で元気にすくすくと大きくなっていったジ-ノ。
不妊手術も終わり、ますます大きくなっていったジ-ノ。
先住猫ともうまくやり、何もかもがうまくいっていた。周子も安心しきっていたその時、友達から突然のメ-ル。
ジ-ノが入院したという短い、たったそれだけのメ-ルでした。
猫が入院とはよほどのことでなければしない筈。
大急ぎで友達に電話をすると、肝機能が悪く、貧血もあるという。しかし問題は、すでにジ-ノが白血病と猫エイズのキャリアを持っていたということである。
その時、周子は初めて気がついたのだ。
猫を里子に出す時、猫は必ず獣医さんにかかり、血液検査をしなければならないということを。
白血病と猫エイズが陽性の場合、猫は一匹飼いをしなければならない。そうしないと他の猫にも感染する恐れがあるのだ。
目の前が真っ暗になった一瞬だった。
頭の中では元気なジ-ノが駆け巡り、一緒にかわれている猫の姿が思い浮かんだ。
あの元気なジ-ノの入院、そして白血病と猫エイズのキャリアがある。他の猫にうつしてしまう可能性もある。そして何より、もしそのどちらかが発病していれば、余命はほとんどないと云っていい。
その日、周子はPCの前に呆然と座っていた。
翌日、急いでジ-ノが入院している病院にお見舞いに向かう周子。
面会時間を待って、病院の中に駆け込んでいくと、狭いゲ-ジのようなものの中にいれられたジ-ノちゃんがいた。
ジ-ノは既に24時間の点滴をうけ、酸素も流しっぱなしにされていた。
いつものような元気な様子はなく、ぐったりと横たわっていたのである。それでも周子が名前を呼ぶと、にゃ-と泣いたジ-ノちゃんなのでした。
感極まってそれ以上の言葉も出ない周子にすかさず獣医さんがよってきた。頼みもしないのに、ムンテラをする獣医さん。
かなり病状が悪いらしい。
そしてここで一つの問題が!!
実は周子、職業柄こういう話しを聞くのは慣れている。と思っていた。
ところがどっこい自分のこととなるとなんでダメで、獣医さんのお話は右から左に流れていく。挙げ句何度も同じことを聞いたり、肝心なことは聞き忘れていたりとかなりとんちんかんなことをしていたのである。
もう少し冷静になって、せめて血液デ-タ-くらい見せてもらえばよかったのに、それすらしなかったのである。というか、そこまで気が回っていなかった。
実はこの時のジ-ノの血液デ-タ-は物凄く悪かった。得に貧血が酷く、なんとHbが3.0しかなかったのである。猫もだいたい人間と同じなので、通常は10.0前後。ということは、普通の半分もないわけである。そうなると体もだるくなるし、めまいや呼吸苦も出てくる。ぐったりと横たわっていたとしても、なんの不思議もないし、かなり緊急を要する事体だったのだ。人間なら勿論至急に輸血を開始しなけれぎならない。ショックを起こす危険もあり、いつ死んでもおかしくない状態だったのだ。
しかしその時はそこまでの気が回らない。
取りあえず、一日いくらくらいお金がかかるのか聞いて、獣医さんを後にしたのだ。一旦友達宅に寄り、また明後日でもくればいいや、と考えていた周子。この日、せめてあと二時間友達宅にいれば良かったのに、そんな後悔に苛まれるのは、まだ後少しばかり後のことなのだった。

ジ-ノにあったことで一安心した周子は、家に帰ってくると、お決まりのPCに向かった。
なんかメ-ルが来てないかなあ〜と早速メ-ルチェック。するとそこにはさっきまでいた友人からのメ-ルが届いていた。
なんでしょね-、と開いてみると、次ぎの瞬間、目の玉が飛び出る程驚愕した周子の姿があったのだ!!
そこにはたった一言だけ書かれていました。
「ジ-ノが死んじゃった」と。
それは悲しいくらいに短い、たったそれだけの言葉でした。
まさか、と周子は自分の目を疑いました。だってほんの何時間前、周子はジ-ノに逢ったばかりだったのですから。
「ジ-ノ、ママだよ」
って云ったら、
「にゃ-」
と答えてくれたばかりでしたから。
嘘だ、と思いながら、返信メ-ルを打ち始めて、手が止まる。
これはメ-ルではいけない、電話だ。
嘘だといってくれると信じていた電話の向こうから、小さく嗚咽がもれた時、周子は真実を知らなければならなかった。
ジ-ノは死んでしまったのだ。
わずか二日程度の入院で。わずか二年くらいの命で。
受話器を握りしめながら、周子は大粒の涙をはらはらと零していた。
もう二度とジ-ノには会えないのだ。
うちのベランダに来てたジ-ノ。家の中を走り抜けていったジ-ノ。先住猫と仲良くやってたジ-ノ。
「ママだよ」っていったら、小さくないて答えたジ-ノ。
もう会えないのだ。
それは、周子が初めて身近で起こった動物の死だったのだ。


center>さよならジ-ノ編
その日、周子は夜勤入りでした。
御葬式を見届けた後、急いで職場に向かえば充分に間に合いました。夜勤入りであったことを感謝しつつ、友達宅に向かう周子。
電車の窓から見えた空の色は、綺麗に澄んでいました。
冷たい冬の空気に洗われたように、澄み渡っていました。
こんな日に御葬式で良かったね。
雨が降っていたら、もっと悲しくなってしまうからね。
そんな周子を、冷たくなったジ-ノが待っていました。既にかれ果てていたと思っていたのに、冷たくなったジ-ノを見た途端、また涙がぽたぽたとこぼれてきました。涙は周子のほほを伝う間もなく、ジ-ノの体に落ちて行きます。
黙ってみていると、ただお昼寝をしているだけのようでした。けれどその体に手を触れるとジ-ノの体はすっかり冷たく堅くなっていました。
当然いえば、当然だけど、猫にも死後硬直があるんだな、と感じた瞬間でした。
ジ-ノは薄目を開けていました。閉じさせようとしたけど、もうがちがちになっていた体は、まぶたすら閉じることが出来ませんでした。
ジ-ノは本当に死んでしまっていた。隣の部屋では、先住猫が悲しそうに泣いています。何も云わなくても、猫にも分かっていたようでした。
可愛いママのジ-ノ。
ジ-ノは天使猫になりました。
ママからのお願いです。
虹の橋の向こうで、元気に幸せに暮らしていて下さい。
ママもいつかそっちに行きますから。いつかみんなで行きますから。
ジ-ノ、君はもう野良じゃないよ。

動物の御葬式はいろいろ形があるらしく、友達は簡易式の自宅でできるものを頼んでいました。時刻になり、葬儀屋さんが到着。
早速ジ-ノを棺の中へ移し、車の中に用意された祭壇の前でひっそりと葬式が始まった。
しかしやってきた葬儀屋の態度はさんたんたるものだった!!
まず、死因を訪ねてきたのはいいとしよう。
「病気なんです」
と友達が答えると、
「こんなにまるまると太った子が病気で死んだんですか」
とよけいな一言をのたまった。
ずっと泣いてる周子の隣で!!
太っていたって、病気になるのよ!!文句ある!!
喉元までそんな言葉が込み上げるものの、涙でつまって言えないまま。
まあ、ここはジ-ノが主役だし・・・。
そしていよいよ出棺となり、最後のお別れ。
涙で声をつまらせながら、
「ジ-ノちゃん、虹の橋の向こうで待っててね、ママもいつかいきますよ」
と周子が云うと、
「はいはい、待ってますよ」
などととんでもないことをいいやがった!!
葬儀屋、お前には聞いてない!!
どういうつもりで葬儀屋さんがきているのか分からないけれど、葬儀を出すということは、自分の家族だと思うから、御葬式をするんです。
別に慰めろとは云いませんが、猫とはいえ家族なのですから、もう少し態度を考えてほしいですね。
こうして周子の初の猫の葬式は怒りと悲しみに混じって終わっていったのである。
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