モード、突然の入院!編


異変は何日か前から始まっていた。
実は、うちのセルボ、モード、猫のくせにほとんど吐きません。
あまりにも吐かないので、獣医さんに連れて行ったほどの猫さんたち。
しかし、猫にも吐かない子もいるのである。
うちのセルボ、モードみたいに。
ある日、家に帰ると、なにやら吐しゃ物の跡。
シーマが吐いたもののようにも見えるし、
そうでないようにも見える。
よくわからないので、しばらく様子を見ていた。
その様子をみること一週間。
夜勤明けで家に帰ると、
いつもは玄関までちゃんと迎えに来てくれるモードの姿がない。
まあ、たまにもこんなこともあるんだろうと、
モードのいそうな場所を捜してみる。
が、モードはどこにもいない。
外に出て行ったのかなー、と洗濯籠の中を見ると、
その中にモードはいた。が、そこはシーマの指定席。
薄暗くて目につきにくい。
シーマはいつもそんな場所を求めて転々とするが、モードは違う。
しかも、なにやらモードはぐったりしている。
そして床の上には、胃液様のものを吐きまくった跡が。
おかしい。
モードを抱っこしてみるが、いつものような元気はなく、なにやらぐったりしている。
ここで初めて吐いていた犯人がモードだとわかり、どうやら脱水になっていることが発覚。
とりあえず、獣医さんに駆け込み、
事情を説明するとすぐに点滴をしてもらった。
水が入って、少し元気になったモードちゃん。
とりあえず、ママと家に帰ってきたのでした。
しかし、これは、まだまだ序章に過ぎませんでした。


モード、初めてのバリウム検査編

さんざん吐きまくったモードちゃん。
お約束で脱水にはなったものの、点滴で少しばかりの元気を回復!
が、落ちた食欲は元には戻らず、相変わらずはいてばかりいる。
しかもそれが他の猫に飛び火して、みんなでご飯を食べなくなってしまいました。
他の子はともかく、モードは動くこともままならず、ふらふらの状態で歩くモード。
トイレに行くのもやっとの様子で、再び獣医さんで点滴をすることに。
獣医嫌いなモードは、いつもバスケットに入れるのも大変なんだけど、
さすがに点滴をすると少し調子がよくなるとわかったのか、バスケットを出すと、自ら進んで入っていく。
そんなわけで、二日目の点滴を終了して家に戻ってきたモード。
しかし、状態は全く変わらない。
おかしい。
三日目、再び獣医さんへ行くと、
とにかく原因究明のために、バリウムを飲むことになった。バリウムの検査は、三時間くらいかかるというので、
とりあえずモードを置いて、家に戻る周子。
その後、周子は衝撃の事実を耳にしたのである。


大変! モード、腹を切られる!!編

バリウム検査が終わった頃、
周子は検査結果を聞くため、
モードを向かえに行くために獣医さんへと向かった。
ドアを開けると、そこに院長先生がいる。
彼は、周子の顔を見るなり、こう言ったのだ。
「これねー。お腹切らないと駄目だねー」
え! と周子は一瞬立ち竦んだ。
その場に棒立ちになる周子。
追い討ちをかけるように、先生の説明は続いた。
「長い糸を飲み込んでいて、それが咽に引っかかって、小腸まで行っている。
でも、行ってるのはそこまで。
レントゲンで見ると、ここから先が移ってないでしょ。
腸が引っ張られて、イレウスになっているでしょ」
確かに、小さなモードの体が映ったレントゲンには、
小腸から先までバリウムが通っていないために、真っ黒だった。
「内視鏡で、上から引っ張ることは出来ませんか」
そう訊ねた周子の声は少し震えていた。
自分の中にあるありったけの知識が、頭の中をぐるぐると回っている。
オペは金もかかるが、体力も奪われる。
万が一、死ぬことだってあるのだ。
「上から引っ張ると、腸が切れる恐れがあるから、
お腹を開いて、糸を探って、腸を少しづつ切って、
取っていくしか方法はないんだよね」
「そうですか」
「オペすると、なんだかんだで、十五万円くらいかかると思うけど」
そう訊ねた先生は、少し申し訳なさそうだった。
何しろ猫は十割だ。
保険はきかない。
全て現金で払わなければならない。
「わかりました」
周子の心は一瞬で決まった。
「十五万くらいで治るなら、オペしてやってください。
どうぞ、うちのモードをよろしくお願いします」
モードが元気になるのなら、元通りの体になるとわかっているなら、周子は百万円払ってもかまわない、と思った。
大切なことはお金ではない。
モードが元気になって戻ってくることなのだ。
その後、周子はこれからお腹を開かなければならないモードを抱いた。
これからうんと痛いことをされなければならないモード。
いろんなことに耐えなければならないモードを見て、
周子は涙が出そうになった。
心の中で、周子は何度も謝った。
糸なんか出しっぱなしにしてごめんねって。
裁縫道具をその辺に出しておいてごめんねって。
糸を飲んだモードは悪くない。
悪いのは、糸を飲ませたママなんだよ。
だからママは、モードが元気になってくれるなら、お金だっていっぱい払うし、何でもしてあげるよ。
心の中で謝り続けるママを見あげて、
事態を何もかっていないモードは、か細い声で、にゃーと鳴いた。
がんばれ、ママのモード。


オペ、その後。編

三時間ものオペに耐えたモード。
よくがんばりました。
モードはイレウスのほかに、腸に四箇所穴が開いていたために、
かなり大きな手術になって、時間もかかったそうです。
お見舞いにいくと、ゲージの中でエリザベスカラーをつけて、
ポンプで点滴を落とされ、おなかの毛をそられ、
テーピングまでしたモードがいました。
立ち上がる体力もないのか、
ぐったりしてて可哀相でしたが、
「ママだよ」と言うと、おっきくお目目を開けて、にゃーと鳴いてくれました。
でも、またすぐに目をつぶってしまったので、
早々に退散してきましたが。
長い長いオペをして、モードは疲れていたのでしょう。
ママは、モードの頭を撫でてやりながら、「よくがんばったね」と言ってあげました。
モードは、本当によくがんばりました。

オペ後二日目、日に日によくなっていってるようで、
今日はぐるぐると鳴いて、頬を摺り寄せたり、立ち上がってあまえてきたり、
姿が見えなくなるとにゃあにゃあ鳴いたりしてました。
でも、傷口が傷むのか、やっとやっとでモードは立ち上がります。
傷口の痛みに耐えて、モードは一生懸命ママに甘えてくれました。

オペ後三日目、腹膜炎の恐れもあると言われたものの、
順調に回復し、日々元気になっていくモード。
順調な経過をたどっている証拠でしたが、
その晩ある事件が勃発した。
家にのこされたにひきは、
これまでさしてなんの変化もなかったのに、突然、セルボがなき出しました。
真っ暗な部屋の中を、あちこちと走り回って、一向に眠ろうとする様子がない。
どうやら、モードを探しているらしい。
「モードはいないんだよ。だから、ねんねこよ」
ままは繰り返し、そう言ってみた。
が猫に通じるわけもなく、最後には諦めて、いつもの寝床へと引き上げていきました。
考えてみれば、生れ落ちたときから、セルボとモードは一緒に生きてきました。
同じ家で生まれ、同じ家で生活し、周子宅にやってきました。
片時も離れたことがない二匹の猫が離れて暮らすのは、これで二度目。
でも、前のときはすぐに戻ってきたので、実際はこれがはじめてのこと。
何も言わなかったけれど、セルボも淋しかったんだろうなあ、と思うと思わず涙が零れてくるのでした。

オペ後四日目、この日モードはママの指を噛み噛みしてました。
それがモードの癖だったので、
噛まれるたびに嬉しかったです。大分元気になってきた証拠です。
剃られたおなかの毛も、少し毛が生えてきて、うっすらと白くなってきました。
点滴の量も、一時間15ccから12ccに減っています。
計画通り、明日からご飯が始まるので、大好きな猫缶を置いてきました。
ママが帰りそうになると、気配を察するのか、じーっとママを見つめています。
「モーちゃん、ばいばいね、また明日ね」
と、手を振ると、モードは突然狂ったように泣き叫びます。
「帰っちゃいや、帰らないで」
と、ゲージの中からモードは叫びます。
こんなモードを一人置いて帰るのは、やはり辛いです。
でも、それも後もう少し、と自分の心に言い聞かせ、
ママは明日から始まるご飯のために、大好きな猫缶を置いてきたのでした。

オペ後五日目、獣医さんに預けて言った猫缶に、
モードは見向きもしないで、ママを待っていました。
小さなお皿に少しだけ、缶詰から出されたご飯が置いてあります。
獣医さんが、「ママからあげてみてください」と言うので、
ママが「ほら、モーちゃん、ご飯だよ」と言うと、
周りをぐるぐる見渡して、
ママしかいないことを確認すると、物凄い勢いで食べ始めました。
猫はもともととても神経質な動物ですから、
場所が変わっただけで、ご飯を食べなくなったりします。
今回は場所が変わっただけではなく、ママがいなかったので、警戒して食べなかったようです。
ママの手の中から、モードはおいしそうにご飯を食べます。
こんなにおいしそうにご飯を食べるモードを見るのは久しぶり。
元気になったモードと喜ぶママに、
獣医さんは退院にしましょうか、と声をかけてくれました。
最後の検査をして、午後からの退院です。


退院、その後。編

予定より一日早く、モードはおうちに戻ってきました。
いっぱいだっこしようと思ったのに、
家に帰ってきた途端、あっちこっちを走りまわって大騒ぎです。
ちなみに、ごはんもばくばく食べてます。
しかも、カリカリ・・・。
抜糸がまだ済んでないというのに、恐ろしい食欲です。
他の子も一緒になって喜んで、
モードのあとを追い掛け回してます。
その晩、モードはママの側から離れず、同じ布団で寝てました。
いつもはセルボと二人、押入れで寝ているんですが、
よほど一人で、不安で淋しかったのでしょう。
モードは安心したように、体を丸めて、すぅすぅと小さな寝息をたてて、眠っていました。
小さな体のモードちゃん。
猫は、どんなにお腹が痛くても、
どんなに気持ちが悪くても、それを言葉で伝えることができません。
ですから、ちょっとした日々の仕草、食欲、排便の状態などから、
ママは判断しなければなりません。
今回のオペも、後三日遅かったら、手遅れでしたよ、と言われてしまいました。
お金もたくさんかかりましたが、
できることはなんでもしてあげたかった。
元気になるなら、お金なんか少しも惜しくないと思いました。
そしてモードは、今日も元気に走り回ってます。
猫は、家族です。
それ以上にもそれ以下にもならないんだなあ、とママはあらためて思いました。
元気にしてくれた獣医さんには感謝感謝です。
そしてモードは、今日も元気です。


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